研究者には、実験手順の決め方、記録の取り方、データの整理、報告書の作成、サンプルの管理など、細かいところまできちんと行うことができる几帳面さが求められます。
そうしないと、必要な時に必要な情報を取り出すことができませんし、研究成果を報告する時でもデータがきちんと整理されていなければ信頼に欠けます。研究をスムーズに進める上で、几帳面さは大切な能力になります。
では、それはどうすれば身につけることができるのでしょうか?
この記事では、ぼくが実践してきた几帳面さを身につけるために大切だと思うポイントをまとめてみました。
基本的な考え方は「悪い部分をなくす」という発想
少しでも自分の考えや行動に「悪い部分」つまり、改善すべき部分があると、それが失敗につながる可能性が高くなります。研究職で言えば、実験を失敗したり、データやサンプル、重要な資料を紛失してしまう恐れがあるのです。
失敗なんて、できればしたくないですよね。それを取り返す時の時間や労力がもったいない!
きちんと正確な仕事をするためには「どれだけ穴のない仕事ができたか」を考えることが大切です。
誰でも、90%まで仕事の完成度を高めることは割と簡単にできます。正直、そこまで到達するのは以外と簡単なんです。しかし、それを100%にまで近づけるのはとても難しいことです。それを実現するには「どこかに穴がないか?」ということを常に考える必要があります。
実験手順の決め方、記録の取り方、データ整理、報告書の作成、サンプルの管理などをする時、「抜けている部分はないか?」「適当になっている部分はないか?」ということをよく考えてみてください。そういう視点から見ると、割と改善すべき点が見つかるものです。
基本的な考え方として「悪い部分をなくす」という発想は、几帳面さを身につける上ではとても大切な考え方です。なので少しずつ挑戦してみてください。
人間の記憶力には限界があるということを認識する
人間の記憶力には限界があります。いくら意識して覚えても、20分後には約40%、1時間後には約50%を忘れてしまうという研究結果もあります。
もし、書類やデータ、サンプルを雑に管理してしまった場合、あなたなら1ヶ月後、半年後、1年後に必要なものをすぐに取り出すことができますか?どの実験に使ったサンプルか、どの実験のデータか思い出せますか?少なくとも僕は絶対にできません。
記憶がどれくらいのペースでなくなっていくのかに関しては「エビングハウスの忘却曲線」を調べてみるとよくわかります。この記事で書かれている実験は、意味のないアルファベットの羅列を被験者に覚えさせて、それがどのくらいの時間で忘れられるかを調べたものです。
記憶は、どれくらいのスピードで忘れられていくか?
この実験から、20分後に42%、1時間後に56%、1日後に74%、1週間後77%、1ケ月後79%が忘れてしまうという結果が出ました。
人間はどんどん物事を忘れていく生き物です。では、その欠点を補うためにはどうしたらいいのでしょう?
答えは単純です。「整理」すればいいんです。覚えておかなければいけない情報を減らすためにも、普段から色んなものをきちんと整理して、どこに何があるかを把握するようにしましょう。そうしておけば、いちいちどこに置いたか覚えずに済み、頭に入れておかなければいけない情報量はぐっと少なくなります。
また、人の記憶は「何かと結びつける」ことで、脳に定着しやすくなります。パソコンに資料を保存するときにも、いつも使っているフォルダに保存しておけば、大体どこにあるか把握できるようになります。取り出すときにも、記憶をたどって見つける動作がかなりスムーズになるため、一度整理するということを身につけてしまえば、後はかなり楽です。
整理することに関しては、最初は結構時間がかかりますが、慣れてしまえばほとんど時間はかからなくなります。逆に、整理せずにほったらかしにして、いざ必要な時に「あの資料どこいったけな〜?」となってしまえば、その方がかえって時間のロスにつながります。
長い目で見ると、やはり何事もきちんと整理した方が効率がいいんです。
机の上は常に綺麗に
常に机の上を綺麗にしていると「散らばった書類を整理しよう」という意識が生まれます。
余計なものは捨て、必要なものはファイリングして書類棚に保管するという事をやれば、常に机の上を綺麗に使うことが出来ます。
これが出来ていない人は、いつも机の上が汚く、大事な書類をなくしてしまったりしています。常に綺麗な状態を維持するのはめんどくさいことではありますが、書類をなくしてあたふたするよりは何倍もマシだと思います。
また、机の散らかり方によって、自分の仕事のスピードが遅いか早いかを把握することもできます。仕事に追いついていない時は決まって机の上が荒れています。そういう意味でも、机の散らかり具合は自分の仕事ぶりをチェックするいい指標にもなります。
また、机を整理するのは集中力を高めることにも役立ちます。自分の机に余計なものが何も置かれていない状態にすると、視界に余計なものが映らないため、集中力が高まります。
どうせやるなら、気持ち良く仕事したいものですよね。机を整理するのは、「効率的」にも「時間的」にもいい影響を与えてくれるんです。
パソコンのファイルを整理する
パソコンのファイルをきちんと整理する事も大切です。たまに、トップ画面にめちゃくちゃファイルを保存しまくっている人がいるのですが、そういう人は大体必要な資料を見つけるのが遅いです。
なぜなら、何のデータかわからないようなファイルでトップ画面がごちゃごちゃになっていると、どこにどのファイルを保存したのかがわからなくなってしうからです。
そういう状態から目的のファイルを探すのは、かなりめんどくさいですよ〜!ほんと、時間の無駄です。
これが僕のパソコンのデスクトップです。さすがに会社のパソコンを見せるわけにはいかないので、家で使っているものなのですが、会社のパソコンも似たような状態です。無駄なファイル一切なし!
常にこういう状態を維持するように意識すると、フォルダをきちんと整理し、データを振り分けて保存するようになります。そうすると、1年とか2年前のデータでも、どこに何が保存されているかを把握する事ができ、いつでも取り出す事ができます。
ファイルの整理を怠っていると、あとで本当に痛い目にあうので、必ずやっておいたほうがいいです。過去の実験の1つ1つの関連性がわからなければ、昔のデータをあてにできなくなってしまいます。
そうすると、せっかく時間とエネルギーを費やして実験したのに、また同じ実験をやらなければいけなくなってしまいます。やり直しの時間ほどもったいないものはない!データ整理大切!
また、自分だけでなく、誰が見てもどこにデータがあるかをわかりやすくまとめる事は本当に大切です。あまり考えたくはありませんが、仕事を辞める時には、他の人に仕事を引き継がなければいけません。そういう時にも、普段から整理をしていないと大変な労力が必要ですし、会社の人にも迷惑をかけてしまいます。
実験をする時はサンプルや試薬を順番通りに並べる
ぼくは実験をする時、神経質なくらいサンプルや試薬を並べる順番には気を使っています。なぜなら、その方が実験をするときのミスが少なくなるからです。
ちょっとマニアックな話なのですが、サンプルや試薬をバラバラに置いてしまうと、どの試薬をどのサンプルに入れたか、どこまで操作が終わったのかということがわからなくなってしまいます。多分実験をしたことがある方なら、ぼくの言っていることは伝わるはず。もし伝わらなかったら、、、、、すいません。笑
そのためぼくは、実験をする時はサンプルや試薬を順番通りに並べたり、置く場所を決めたりしています。こういう細かいところにこだわって実験をすると、格段にミスをする確率は低くなります。
いつでも実験データの後追いができるようにノートを整理する
ノートの書き方は人それぞれですが、ぼくのノートは「振り返り」にはかなり適した書き方をしています。4年間ずっと自分のスタイルは変わっていませんし、それで困るようなこともありませんでした。振り返りのできるノートを書くということは、研究者としてはとても重要な能力だと思います。
ノートは研究成果の一番の大元である「生データ」を記録しているものです。そのノートの取り方が雑だと、データをまとめる時や、発表用のスライドを作る時にかなり苦労します。
それだけならまだしも、もし外部の機関に研究成果を提出する場合、実験ノートに書かれたデータがあやふやであれば、大きく信頼を失ってしまいます。研究者失格と言っても少しも大げさではありません。
自分の成果をきちんと証明するためにも、今までの努力を無駄にしないためにも、ノートはきちんと整理するようにしましょう。自分なりに「振り返り」ができるノートの書き方を工夫することが大切です。
実験が終わったら必ずデータをパワーポイントにまとめる
ぼくはそれぞれの実験ごとにデータをパワーポイントにまとめるようにしています。なぜなら、1つの実験で出てくるデータは1つだけではないことがほとんどだからです。それらをつなぎ合わせるために、パワーポイントで1つにまとめるようにしてます。
ただ、本音を言うととてもめんどくさいです。笑
でも、データをその都度まとめるということに関しては、続けていくといいことがたくさんあります。
まず、データの関連性がはっきりします。実験をしてから1ヶ月後に、もう1度データを見て、どのデータがどのデータと関連しているかを頭の中で整理するのはかなり難しいです。というか無理!!結局「きちんとまとめなきゃダメだな〜」という流れになります。
他にも、実験結果を上司に報告する時にも、過去の実験結果と比較する時にも、データをまとめておいた方が楽です。また、実験をする際にはどういうデータが必要か?どこが反省すべきポイントか?といったところもより明確になってきます。
まとめ
かなりマニアックな内容もありますが、以上が研究職で大切な「几帳面さ」を身につけるためにぼくが実践していることです。
確かに、身につけるのは大変だし、めんどくさいことだと思いますが、一度身につけてしまえばこちらのものです。逆に、几帳面にしないと気が済まなくなります。仕事では、このくらいしっかりやったほうが結果が残せると思うので、よかったら参考にしてみてください。